名古屋地方裁判所 昭和25年(行)3号 判決
原告 平田博司 外一名
被告 愛知県知事
一、主 文
原告等の訴を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、請求の趣旨
原告等訴訟代理人は「被告が昭和二十四年八月三十一日附をもつて原告両名に対してなした各免職処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。
三、事 実
原告等はいずれも愛知県嘱託として同県地方労働委員会(以下地労委と略称する)に勤務していたものであるが、被告は昭和二十四年八月三十一日附をもつて原告両名に対し「同県定数条例施行に伴い過剰人員を整理する」との口実のもとにそれぞれこれを免職処分に付した。しかしながら右免職処分は、次の理由によつて違法である。
(一) 原告両名に対する解雇理由はその表面上は上記定数条例施行による過剰人員を整理するというのであるが、原告等が被告のため免職処分に付せられた直後右定数条例が改正されその定員が増加した事実があり、右事実から考えれば被告が原告等を免職した真実の理由は過剰人員の整理にあるのではなく、右は原告等が前記地労委職員をもつて組織する愛知県地方労働委員会事務局職員組合の組合員としてその組合活動が熱心だつた為に外ならぬのである。かかる被告の免職処分が労働組合法第七条の規定に違背しその取消さるべきものなることは勿論である。
(二) 次に昭和二十三年七月十三日被告と前記地労委との間に締結された覚書によれば、地労委職員の免職処分については被告は必ず地労委会長の決定に従つてこれを処理せねばならぬことになつている。しかるに被告は原告両名を免職処分に付するに際し右手続を履まず、且つ同会長(当時の会長は宗本利市)の意見を聴く処置すら採つていないのである。このような免職処分が違法であつて取消さるべきことも亦言をまたない。
よつて原告等は右違法免職処分の取消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。
なお、本件訴状の冒頭には当初被告として「愛知県右代理者青柳秀夫」と記載してあつたが、原告訴訟代理人は昭和二十五年五月二十日の口頭弁論期日において右被告の表示を「愛知県知事青柳秀夫」と訂正する旨陳述した。
被告訴訟代理人は本案前の答弁として主文同旨の判決を求め、その理由として次のように述べた。
(一) 原告等の主張に従えば、本訴請求の趣旨は原告等に対する免職処分の取消を求めるというのである。そこで原告等に対する本件免職処分の主体はいつたい何人であるかを考えてみるに、原告等の身分は愛知県嘱託であり、愛知県嘱託に対する免職処分の処分権者は愛知県知事である(県嘱託に対する任免権に関し法規上明文はないが、(イ)昭和二十三年七月二十二日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官の書簡並びにこれに基く政令は雇傭人等を含む一切の政府又は地方公共団体の職員につき公務員の名称のもとに共通の規定を設けていること、(ロ)行政機関職員定員法は従来のいわゆる官吏のみならず雇傭人等一切の政府職員の定数を設けていること、(ハ)愛知県定数条例は吏員雇傭人等を含めた一切の県職員の定数の定めていること等から推して、最近の法律の傾向は官公吏と他の政府又は地方公共団体の職員との間に身分上の区別を設けぬ趣旨なることが明かであり、他方県吏員に対する任免権者が県知事であることは地方自治第百七十二条第二項の規定するところであるから、県嘱託に対する免職処分権が県知事に存することは蓋し疑を容れぬところであろう。)従つて本件において原告等を免職処分に付したのは勿論愛知県知事であり、原告等は愛知県知事を被告として本件取消の訴を提起すべきであつたに拘らず、原告等は不当にも愛知県を被告として訴を提起したことその訴状の記載自体から明かであるから、右訴は不適法として却下を免れないのである。もつとも原告等は本件口頭弁論期日において右訴状の記載を改め被告を愛知県知事に訂正する旨申立たが、右のごときは単に被告の表示を訂正するに止まるものでなく被告そのものの変更であるから、行政事件訴訟特例法第七条によつて原告等に故意又は重大な過失の存しないことが必要である。しかるに(イ)原告等はいずれも地労委職員としてその職務柄相当程度に法律に通じていると思われること、(ロ)現に原告等は本件免職処分につきさきに地労委に対し労働組合法第七条による救済申立をなした際その相手方を愛知県知事としたこと、(ハ)原告等には四名の弁護士が訴訟代理人として依頼され訴訟の処理に当つていること等から考え、原告等が本件訴提起に際し被告を誤つたことは原告等自身又は訴訟代理人の重大な過失にもとづくものと解せられるから、右被告の変更は許容されないものと言わねばならぬ。
(二) つぎに行政事件訴訟特例法第五条第一項によれば、行政処分の取消又は変更を求める訴は出訴権者が当該行政処分のあつたことを知つた日から六ケ月以内にこれを提起せねばならない。しかるに原告等は昭和二十四年八月三十一日本件免職処分の申渡を受けこれを了知しながら、右六ケ月の期間を経過した後なる昭和二十五年三月一日右免職処分取消の訴を提起した。このような出訴期間を徒過した取消訴訟の不適法なことは勿論であり、その却下を免れぬことは言をまたない。
四、理 由
先ず本訴において被告代理人主張のような被告の変更があつたか否かの点を判断する。
本件訴状の記載によれば、その冒頭当事者の表示の欄に被告として「愛知県右代理者青柳秀夫」と掲記してある。しかるに原告等代理人は昭和二十五年五月二十日の口頭弁論期日において、右被告の記載を「愛知県知事青柳秀夫」と訂正する旨陳述した。右は一見原告等が最初愛知県なる地方公共団体を被告として訴を提起したに拘らず、後その誤りに気付き行政事件訴訟特例法第七条第一項の趣旨に則りその被告を愛知県知事青柳秀夫(愛知県の行政機関)に変更したごとく感ぜられぬでもない。しかし右訴状の内容を具さに検討し且つ本件訴訟の経過を通観すれば(被告代理人も最初から愛知県知事青柳秀夫の訴訟委任を受けて応訴している)、原告等が最初から相手方としたのは原告等を免職処分に付した愛知県の行政庁たる愛知県知事青柳秀夫であつて、愛知県なる地方公共団体を被告としたのでないことを看取し得る。前記のような訴状の不正確な記載は、原告代理人が訴状作成の際におかした不注意にもとづく表示の粗漏であつて、これを目して原告代理人が当初から本件被告の選択を誤つたものと解するは妥当でない。従つて後に右記載を改め愛知県知事青柳秀夫と訂正しても、右は単なる被告の表示の訂正に過ぎず、被告そのものの変更ではない。さればこの場合、前示特例法第七条第一項但書によつて原告等の故意又は重大な過失の存在を云為する被告の主張の使用し得ないことは勿論である。
そこで次に、本件訴訟提起とその出訴期間の関係について考察する。およそ違法なる行政処分の取消又は変更を求めるいわゆる抗告訴訟においては、出訴権者は右行政処分のあつたことを知つた日から六ケ月以内に右訴を提起せねばならぬことは行政事件訴訟特例法第五条第一項に明定するところである。しかして原告等は昭和二十四年八月三十一日被告愛知県知事青柳秀夫から本件免職処分の言渡を受け即日これを了知したことは本件弁論の全趣旨に照して疑のないところであるから、原告等はその翌日なる同年九月一日より起算し六ケ月以内の昭和二十五年二月末日までに右免職処分の取消の訴を提起せねばならなかつた訳である。しかるに原告等はこれを徒過して同年三月一日右訴状を当裁判所に提出したことは本件記録中訴状の表紙に押なつしてある当裁判所の受付印に徴して明かであつて、他に右受付印の日附が真実に合致しないことを認めるに足る資料がないから、右は結局その出訴期間を徒過した不適法な訴と解するの外ないのである。
かような訳で本件訴訟は既にその出訴期間の点において不適法であり却下を免れないから、進んで本案の審理に入ることを省略し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のように判決する次第である。
(裁判官 山口正夫 奥村義雄 夏目仲次)